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入部を決めた理由

てってってって……。

軽快に歩く自分の足音が、静かな廊下に響いている。

もう誰もいないのか、それとも皆、追い込みをかけているのか。それは分からなかったけど、少し聞こえる自分の心臓の音が早まるのが分かる。

ここ数日、色んな部活を見てきた。

同級生が立ち上げようとしている部活や、存続を望んでいる部活。

​運動系のものはよく転けてしまうこともあって、文化部と比べると積極的に行こうと思うことはできなかった。

だって、その目は真剣だったから。

全国に行こうと、頑張ろうとしている中に運動音痴な自分が入ることを、ほんの少し弱気な自分は許さない。

できるのなら。叶うのなら、その近くで応援はしたいけれど。

そんな中で耳にした、応援部という存在は自分にうってつけだった。

新規で始めようとしてる部活で、皆を応援できて、それが力になるだろうと信じていけるもの。

たった一人ではなく、沢山の一人で構成できる、大きな声。その中に入れたらどれだけ良いだろうと思って、まだあまり話しかけたことがなかったクラスの子に声をかけた。

「新しい部活を作るって、聞きましたです。まだ入れますか?」

快く頷いてもらえて、まず一つ。手にした入部届を見て、そして思う。

――応援されるような当事者にも、なってみたい。

そう考えた時、さて、自分は何をしたいだろうと、また考え始めた。

「すいそうがく……楽譜、全然分からなかったです……えんげき……練習舞台でこけたし……さどう……足、しびれて大変だったですね……う~ん……」

とりあえず見学できる部活は全部試した。試した上で、これといって自分が得意と言えることがなくて。

なら、……なら。

「……応援部は、お守りも作る予定って聞いたです」

家庭科は苦手科目の一つだ。かといって得意科目もないのだが、玉結びや玉留めを成功させた試しすら、そもそも針に糸を通せたこともない。

「……お守り、作りたいです」

自分の力で、自分の手で。

部活の勧誘期間はまだあっただろうか、いや、間に合わなくても行かなくては。

てってってって……。

部室棟を駆け巡って、ようやく目的の扉を見つける。

深呼吸を一つ。まだ早い鼓動をちょっとだけ忘れて、コンコンと叩いた。

しばらくして、はい、と声がする。良かった、誰かいたようだ。

「お、押忍!」

 

「被服手芸部って、ここで合ってるですか?ゆらちゃんは、ここに入部したいです!」

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